レクチャーシリーズ

2016レクチャ―シリーズ〜第6回:内田青蔵氏「残すことはつくること」

2016年12月1日

第6回となる2016年度最後のレクチャーシリーズには、建築史家で神奈川大学建築学科教授の内田青蔵氏をお招きした。内田氏は日本近代住宅史を専門とし、とりわけ明治時代から昭和戦前期における日本人の住まいの移り変わりを体系的に取りまとめた『日本の近代住宅』(鹿島出版会、1992年)など数々の著作のある、この分野の第一人者として知られる研究者である。
レクチャーでの題目は「残すことはつくること 「スクラップ アンド ビルド」から「キープ アンド チェンジ」へ」であった。近著『受け継がれる住まい 住居の保存と再生法』(共著、柏書房、2016年)で新たに示された「キープ アンド チェンジ」の概念を下敷きに、歴史的建造物を残しながら建築を表現することがこれまでとは異なる可能性を持ち、これから来るべき建築を取り巻く新たな時代像について講演いただいた。
学生に向けて興味・関心を引くものとなるよう、「オルセー駅」をコンバージョンした「オルセー美術館」(1986年)、電力会社の旧建物を改修した「カイシャ・フォーラム・マドリッド」(Herzog & de Meuron改修設計、2008年)など、海外の「再生建築」を取り上げ、さらには「カレ・ダール」(1993年)、「ライヒスターク(ドイツ連邦議会新議事堂)」(1999年)など、世界的建築家のノーマン・フォスター氏のプロジェクトから歴史的建造物の保存再生がヨーロッパでは重要な仕事・作品として位置付けられていることを説かれた。終盤には国内に話題を移し、内田氏自らが保存再生に関わられた赤坂プリンスホテル内の「旧李王家邸」(赤坂プリンスホテル別館)も例に取り上げられて、歴史的建造物の再生は新しい空間を生み出す可能性があり、「キープ アンド チェンジ」の考え方に立つことがこれからのチャンスを切り拓くとして講演を終えられた。
後の対談では、「キープ アンド チェンジ」を行うために必要な建築への深い理解と教養をどのように自らに育むかが主な話題となった。やはり建築そのものを自らの足で訪ね、自らの目で見ること以上の学びはないというのが共通の見解であり、改めて「見築」の重要性を認識した時間となった。また、意匠面からの難しさもさることながら、構造などエンジニアリングから見た時の歴史的建造物の保存再生は非常に困難な性格を持つことも話題に上がり、「キープ アンド チェンジ」が広く認知されてゆく上では乗り越えるべき課題が多いことも理解できるものであった。(藤木竜也)


内田青蔵(うちだ・せいぞう)1953年秋田県生まれ。75年神奈川大学工学部建築学科卒業。83年東京工業大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程満期退学。95年文化女子大学造形学部助教授・教授、2006年埼玉大学教育学部教授を経て、09年より神奈川大学工学部建築学科教授。